化学・合成樹脂メーカーの三井・ダウ ポリケミカルは、距離がある環境下での安全性向上を実現する為、ソリューション・プロバイダーである横河ソリューションサービスの提案によるフィールドワークスタイル変革を実施。“火気厳禁”の工場内防爆エリアで使う作業者の遠隔支援にWeb会議システムを導入し、防爆仕様のタブレットと防爆仕様のスマートグラスを追加採用した。その理由とは?
IT化で業務の効率化を進め、安全性を高めたい!
三井・ダウ ポリケミカルは、日本を代表する総合化学メーカーである三井化学株式会社と、素材科学リューション・プロバイダーとして世界をリードする米国ダウ・ケミカル社との合弁会社だ。1960年12月の設立以来、エチレン系機能性樹脂の製造・販売を中核としてきた。
瀬戸内海を臨む広島県大竹市には、1958年4月に稼働した日本初の石油化学コンビナートの一角につくられた同社の大竹工場がある。1962年2月に低密度ポリエチレンの生産を目的として操業を開始し、現在はゴルフボール、自動車部品などの工業製品に使われるアイオノマー樹脂、食品包装や各種成型品に使われるエチレン・(メタ)アクリル酸共重合樹脂などを生産している。
そんな大竹工場では、2015年頃から「業務のIT化」が話題によく挙がるようになり、自社の業務にも生かせないかという議論が始まったという。
「何らかの課題を解決するというよりも、タブレット端末を活用して、業務の効率化・安全性向上に役立てられないかを模索するところからスタートしました」
そこで同時期にDCSシステムで支援を受けていた横河ソリューションサービスから提案を受けたのが、Apple製の「iPad」を使った遠隔支援の仕組みだった。
iPad本体のカメラを使って映像を共有しながら双方向のコミュニケーションができる仕組みに魅力を感じたという。
防爆エリアとの遠隔コミュニケーションを実現
一般的な企業であれば、タブレット導入のハードルはそこまで高くない。しかし、化学工場であれば話は別だ。石油を原料として合成樹脂製品を製造する化学工場の生産現場は可燃性ガスを扱っている。万が一、何らかの理由により重大なインシデントが発生することも考えられる。
そんなリスクを限りなくゼロに近づけるため、現場は当然“火気厳禁”であり、業務で使う電子機器にも、引火するおそれのない構造を持つ「防爆仕様」が必須要件となる。
幸いなことに、iPadには日本国内の防爆認証「TIIS Zone-1」に対応したサードパーティー製の防爆ケースが提供されている。
実際に防爆仕様のiPadを現場で試したところ、電波の強度、周辺機器への影響や通信速度等、問題ないことが確認できたので、防爆仕様のiPadと一般仕様のiPadを導入。また、作業現場の支援を行うためにWeb会議システムもあわせて導入した。
「遠隔地の現場を支援するときに、あらかじめ撮影した写真を送りつつ音声通話でやりとりする従来の方式では、どうしても食い違いが生じます。その点、タブレット端末を使ったビデオ通話なら、現場の映像をリアルタイムに確認できるので、伝えたいことが確実に伝わります」
iPadを業務で使いはじめた三井・ダウ ポリケミカルの大竹工場では、すぐさま作業現場の遠隔支援でメリットを感じられた。その反面、課題も見つかった。
「二人一組で作業を行っていたときのことです。一人は計器室で、iPadのカメラに計器の指示モニタを撮影し、もう一人は離れた現場でiPadを機器に立てかけ、画面上に映った指示モニタを見ながら作業を行っていました。このとき、立てかけていたiPadが落下するヒヤリがありました」
「現場ではiPadを固定する場所がなく、不安定な場所に置いていたのですが、案の定iPadを落としてしまいました。手に持ちながらの、片手作業はできないので、何らかの対応が必要と感じていました」
この課題を解消するために横河ソリューションサービスが提案したのが、ハンズフリー操作が可能な防爆仕様のスマートグラスだった。
防爆仕様のスマートグラスが現場の安全性向上を実現
大竹工場がiPadを導入した当時、防爆仕様のスマートグラスは市場に存在していなかった。ところが先ほどの課題の解決策を探ろうとしていた矢先、2019年3月、ブイキューブが新しいソリューションを発表。それがウェアラブルデバイスを手掛ける米国RealWear社の防爆仕様スマートグラスと、V-CUBEコラボレーションを組み合わせた新ソリューションだった。
「防爆仕様のスマートグラス導入によって作業効率や安全性が向上することは間違いありません。特に安全性を最重視して、防爆仕様のスマートグラスを導入することにしました」
iPadとスマートグラスでは、ユーザーの操作性は大きく異なる。しかし、実際に現場で利用したエンジニアは、デジタルネイティブ世代に近い20〜30代の若手社員が中心だったこともあり、ほとんど何も教えることなく使いこなせてしまったという。
「導入当初は音声操作に若干の戸惑いもあったようですが、実際に使ってみるとマニュアルを参照しなくても直感的に使え、意外に操作性も良いという声が寄せられました。今後も引き続き現場作業の遠隔支援等に積極的に活用していきたいと考えています」
今後はソリューションのさらなる利用拡大を検討
今回導入した防爆仕様のiPadとスマートグラスのリアルタイムコミュニケーションのソリューションは、社内のみならず、社外からも興味深く注視されているという。大竹工場と同じ石油化学コンビナートにあるグループ会社からも見学者が訪れている。
今後は、導入した防爆仕様のiPadとスマートグラス、リアルタイムコミュニケーションの用途をさらに広げていきたい考えだ。
「工場内に設置した監視カメラと組み合わせられないかと検討しています。将来的には工場内にドローンを飛ばす等、保全業務等に活用できればと考えています」
三井・ダウ ポリケミカルのような化学・合成樹脂メーカーに限らず、石油精製プラント、可燃性薬品や塗料・溶剤などのメーカー、それらの貯蔵・保管施設など、防爆仕様が求められる現場は少なくない。同社が導入したソリューションは、これまで防爆仕様の製品がなかったために。ITの利活用が進まなかった特殊な環境を持つ企業のデジタルトランスフォーメーションを促進するヒントになるだろう。
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