Search

名バリスタでもある計算化学者が解明した「完璧なエスプレッソ」をいれる方法|WIRED.jp - WIRED.jp

コーヒーの抽出にまつわる変動要因に徐々に変化を加えることで、最適な抽出方法を導き出したというある論文が発表された。この方法に従えば「再現性の危機」を解決していつも同じ味を得られるほか、コーヒーの使用量を最大25パーセント減らすこともできるという。名バリスタでもある計算科学者が解き明かした“コーヒーの科学”とは?

WIRED(US)

espresso machine

LUIS DIAZ DEVESA/GETTY IMAGES

コーヒーをいれるプロセスは、曲がりくねった小さな記号を使った40ページにも及ぶ偏微分方程式でかろうじて表すことができるほど複雑なものだ。顔なじみのバリスタが客の名前を正しく覚えられないとしても、無理はない。

コーヒー豆の種類や焙煎時間だけではない。水圧や水温、豆の総量や粒度(設定によるが100~200μm)、コーヒー粉の詰め具合など、味や香りに影響する2,000以上もの異なる分子を最適に抽出する仕事なのだ。

想像してみてほしい。これらの大量の変動要因のごく一部を指定したにすぎない“レシピ”の通りにいれたとしても、40ミリリットルのエスプレッソがいつも同じ味になるはずがない。だから、ちょっとくらい気になることがあったとしても、バリスタを許してやってほしい。

「完璧なエスプレッソ」は再現できるのか?

実際にコーヒーの専門家たちは、すべてが非常に複雑だと口を揃えて言う。だが今回、そうした専門家のひとりであるクリス・ヘンドンが、この特殊な「再現性の危機」の解決案を示した。計算化学者を本業とする彼は、選手権を争う腕前のエスプレッソ抽出技術をもっているのだ。

ヘンドンによると、6年間の研究を経て、これらすべての変動要因を扱う公式のようなものが得られたという。これまでは不可能だった「毎回まったく同じエスプレッソ」を確実にいれるための公式だ。

わかりやすく言えば、それはコーヒーの信奉者たち目指して争い続けてきた、至高の手順や方法のようなものだ。こうした研究全体を“コップの中の嵐”(あるいはデミタスカップの中のひと悶着?)のように感じる人もいるかもしれない。だが、コーヒーとはイチかバチかの真剣勝負なのだ。

ヘンドンは英国で博士課程の学生だったころにコーヒーに興味をもった。彼が心ひかれたのは、単に古きよきC8H10N4O2(つまりカフェイン)の溶液としての機能だけではなかった。コーヒーのすべてを知りたいと思ったヘンドンは、地元に住むコーヒーのプロフェッショナルたちとの親交をきっかけに、コーヒーのワールドカップであるワールド・バリスタ・チャンピオンシップの英国と米国のチームに参加することになった。

「審査員によってスコアシートの点数が異なるのをよく見かけますが、審査員のパレットが違うわけではありません。抽出した4杯のエスプレッソのショットの味が同じではないからなのです」と、ヘンドン言う。「大会でエスプレッソを味見したことがありますが、おかしな話です。参加者には素晴らしい技術があるのに、競技中に同じ4杯をいれることができないのです。そこから始まりました」

味を決める抽出率の調べ方

完璧なショットを抽出しようとする際の一般的な変動要因──すなわち粉の挽き方や押し固める方法(タンピング)、水温や水圧が含まれることもある──を調整することで問題が解決するとは思えなかった。

そこでヘンドンは、水に含まれるミネラル成分や豆の古さなど、より不可解な変動要因を研究室で調べることにした。「エスプレッソの抽出物を予測できるようになりたかったのです」と、彼は説明する。

1杯のコーヒーを構成する成分のほとんどは水で、それが溶解した固形物と混じり合っている(この固形物の割合はドリップ式で約1パーセント、エスプレッソで7~12パーセントとなる)。

このため「抽出率」を知るには、コーヒーを通り抜ける光の量である屈折率を利用して、コーヒーに含まれるコーヒー粉の量を推測する。ワインの糖度測定に使われる「Brix値」と同じようなものだ。

「コーヒーの濃度が高いほど、つまり溶けている量が多いほど、屈折率は比例して増加します」とヘンドンは言う。「定常的な情報は一切わかりません。これまでで最もまずいコーヒーが、最もおいしいコーヒーと同じ抽出率になるかもしれません」。それでも、測定することはできるのだ。

「一定の味」が難しい理由

水の量と時間が一定であれば、豆を細かく挽いたほうが高い抽出率を得られることは理解できるだろう。粉が細かくなるほど、水に晒されるコーヒーの表面積が増えるからだ。

ヘンドンの新しいモデルは抽出率の増加を予測しているが、これはあるポイントまでしか当てはまらない。特定の細かさに達すると、エスプレッソマシンのバスケットで粉が密集しすぎることになるため、水も浸透せず、抽出率がピークに達するのだ。

とはいえ、バスケットへの粉の詰め方は一様ではないため、実際の味は変わってくる。コーヒーのプロフェッショナルがよく言うのは、抽出不足(表面積の不足/豆が粗すぎる/粉の詰めが不十分/水が足りない)になると酸味が出て、その反対の抽出過剰になると苦みが出るということだ。

スペシャルティコーヒー協会によると、一般的には17~23パーセントの抽出率と、酸味のあるフレーバーと基本的な苦みの組み合わせが好まれ、そのどちらが多すぎても少なすぎていけないという(なお、同協会にコメントを求めたが回答は得られなかった)。

少々しつこくなってしまったが、お許しいただきたい。ともかく、ヘンドンいわく重要なのは、抽出率が23パーセントになるような挽き方の設定が見つかれば、ほかの変動要因を問題なく扱えるということだ。これが鍵になる。この数字に到達してから味わおう、というのだ。

「エスプレッソの世界を渡り歩くには、いくつかのコツが必要です」と彼は言う。「粉の使用量を減らすだけで、同量のコーヒーに対する抽出率は高くなります」(なぜなら、コーヒーに比べて溶剤、つまり水が増えることになるからだ)。コーヒーの使用量を減らして粗めに挽いた場合も同様だ。溶け出す個体の量は増えるが、抽出も過剰になるので苦みが強くなる。

「抽出率を最大にして水の使用料を少し減らすという選択肢もあります」と、ヘンドンは言う。ショットの抽出時間が短くなり、エスプレッソの量は少し減るが、嫌な味が過剰に抽出されることもなくなる。つまり、溶剤である水と、その水が味の組み合わせを抽出するコーヒーの割合の変化に、すべてが依存するというわけだ。

espresso

CHEVANON WONGANUCHITMETHA/EYEEM/GETTY IMAGES

コーヒーの使用量を減らせる可能性

そこでヘンドンが提案しているのが、通常バリスタが使用するコーヒーの量とほぼ同量(20g)を、非常に粗く挽いたものから始めることだ。粗挽きのほうが抽出時間が短くなることから、10秒間の抽出で酸味が強くて薄いコーヒーが出来上がる。あとはその繰り返しだ。

最大抽出率に達するまで、徐々に粉を細かくしていく(最大抽出率を超過すると、味は再び薄くなり始める)。「その時点で過剰抽出になるなら、水の使用量を減らす必要があります」とヘンドンは言う。「抽出不足であれば、コーヒーの量を減らすのです」

満足できるポイントが見つかれば、特定の抽出時間の達成にわずらわされることなく、繰り返しそこに到達できるようになる。完璧な一杯をいつでもいれられるようになるのだ(もちろん、同じコーヒー豆を同じ煎り方で使うことが前提になる)。

これには、同じ味のエスプレッソをいれ続けられること以上の意味がある。エスプレッソの抽出に必要なコーヒーの使用量を減らせる可能性があるのだ。ヘンドンの示した方法で、スペシャリティコーヒー専門店が使用するコーヒー量を最大25パーセント減らせるかもしれない。

また、オーナーがこの方法を実際に試したカフェでは、ショット抽出時間が14秒まで短縮された。多くの場合に経営側から義務づけられている抽出時間が25秒であることを踏まえると、その差は歴然だろう。

「時は金なり」というが、コーヒーの世界でも同じだ。米国では、エスプレッソをベースにした飲み物が1日に1億2,400万杯消費されている。このデータに基づいたヘンドンの計算によると、コーヒー豆の予算だけで、業界全体で年間11億ドル(約1,208億円)もの経費削減になるという。

芸術的で、情緒的なバリスタのために

コーヒーが複雑であることに意義を唱える人はいないだろう。しかし、誰もがベントンが提案した方法に同意しているわけではない。Wrecking Ball Coffee Roasters(レッキングボール・コーヒーロースターズ)の共同創業者でヘッドバリスタを務め、サンフランシスコのベイエリアではちょっとした“コーヒーセレブ”でもあるのニック・チョウは、ヘンドンの結論にまったく納得していない。

「どんな方法であっても収益性を高めることに価値を与え、それがビジネスのプラスになるという考え方は、ネスレやフォルジャーズといった企業のものです」とチョウは言う。

「そこはわたしたちが生きる世界ではありません。それではまるで、ブドウの処理方法を変えれば、高価なボルドー産ワインからさらに10オンス(約300g)のワインが得られると言っているようなものです。高価なボルドー産ワインをつくる人々は、そんな提案に見向きもしないでしょう」

一方で、全米規模のスペシャルティコーヒーチェーンを目指す企業が興味を示す可能性はある。もしスターバックスがコーヒー豆の購入量を減らすことができれば、世界経済に影響が及ぶかもしれない。

チョウは、ヘンドンが変動要因について十分に検討したとも考えていない。「コーヒーの粒子に微細孔があることを想定していましたが、見てみるとそうではありません」と、チョウは言う。「深煎りコーヒーでない限りは、その通りです。深煎りコーヒーの定義とは、微細孔ができるまで煎ることです」

ヘンドンのチームによるコーヒーの調達や、使われたコーヒーミルの種類についても、チョウは問題点を指摘している。「わたしたちのビジネスは、このようなカフェとコーヒー体験を生み出すことです。コーヒーの味や香り、風味。これらが関心の対象なのです。収益性を高めることは関心の対象ではありません」

ヘンドンは、これらのどの意見に対しても反論するつもりはないと言う。彼が望んでいるのは、バリスタたちが芸術的で、情緒的な存在になることだ。バリスタはそうである必要がある。

「バリスタたちが風味の“境地”に達し、その味が確かに存在するという自信をもってカップを提供してくれることを望んでいます。エスプレッソは非常に複雑なものです。わたしたちはバリスタやホームユーザー、そしてエスプレッソマシンを使ってこの世界を歩くことに興味を抱くすべての人々に対して、ひとつの方法を紹介したのです」

ヘンドンの“公式”によって、バリスタがいまより幸せになるなら価値はある。それでコーヒーを飲む人々も幸せになるとしたら、さらにいいことだ。
※『WIRED』によるコーヒーの関連記事はこちら

RELATED

SHARE

Let's block ads! (Why?)



"化学" - Google ニュース
April 25, 2020 at 12:00PM
https://ift.tt/2Y2HHjj

名バリスタでもある計算化学者が解明した「完璧なエスプレッソ」をいれる方法|WIRED.jp - WIRED.jp
"化学" - Google ニュース
https://ift.tt/35OIntT
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update

Bagikan Berita Ini

0 Response to "名バリスタでもある計算化学者が解明した「完璧なエスプレッソ」をいれる方法|WIRED.jp - WIRED.jp"

Post a Comment

Powered by Blogger.