花王はこのほど、動物を用いずに化学物質の全身毒性を評価した事例報告書2報が、OECD IATA Case Studies Projectに採択され、10月1日にOECDの公式サイトで公開されたと発表した。
このプロジェクトは、化学物質の安全性評価事例を蓄積して、新たな評価手法のガイダンスを発行することを目的としているもので、花王のこれらの報告書は、同プロジェクトにおける、新たな動物実験代替法に関連するガイダンスの発行を前進させることが期待される。
なお、民間企業が単独で同プロジェクトに事例報告書を提出し採択されたのは初めてという。
化学物質を安全に使用・管理するためには安全性評価は欠かせず、近年は、安全性評価の試験法において動物実験代替法開発の必要性が世界的に高まっている。
こうした中、同社は日用品、工業用化学品の事業を通じてさまざまな化学物質を扱っていることから、早くから化学物質の安全性評価のための動物実験代替法の研究を行ってきた。
これまでに同社が開発に関わった皮膚感作性、眼刺激性に関する動物実験代替法は、世界的に認められる公的試験法であるOECDテストガイドラインに収載されている。
一方、皮膚や眼などの局所に対する毒性と比較して、全身毒性は、毒性の発現に至るメカニズムが複雑であることから、単一の動物実験代替法での評価は極めて難しいとされている。
花王は2013年頃から、全身毒性に関しても、動物実験代替法の開発を進めてきた。
同社は、2つのモデル化学物質群(クロロベンゼン類、アルキルフェノール類)の動物実験を用いない全身毒性評価事例研究を行い、OECD IATA Case Studies Projectに2報の事例報告書を提出した。
この事例報告書はOECDの国際会議(2019年11月19日、20日)で科学的妥当性について詳細な議論が行われたうえで評価事例として採択され、2020年10月1日にOECDの公式サイトで公開された。
この評価事例で花王は、毒性メカニズムに基づく統合的な毒性評価(IATA)を基盤としたリードアクロスを用いて化学物質を評価している。
リードアクロスは、評価したい化学物質に化学構造が類似している化学物質の、既存の安全性情報から毒性を類推する手法で、新たな動物実験を回避できる利点がある。
そのため化学物質の安全性評価における動物実験代替法として盛んに検討されているが、化学構造が類似していても毒性が類似しないケースがあるという課題があった。
今回の評価事例では、化学構造の類似性と、細胞実験等による毒性応答の類似性とをあわせて判断することで、評価したい化学物質の毒性が推測できることを示した。
つまり、リードアクロスの課題をカバーし、予測精度の向上につながることを示した今回の成果は、新たな動物実験代替法に関連するガイダンスの発行に貢献することが期待されるという。
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November 30, 2020 at 08:30AM
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