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「新型コロナウイルスのワクチン開発は加速できる」:エボラ出血熱ワクチンを開発した科学者が語る|WIRED.jp - WIRED.jp

エボラ出血熱のワクチンを開発した科学者が、今度は新型コロナウイルスとの闘いに挑んでいる。エボラのときと比べて今回は何が異なるのか。新型コロナウイルスワクチンの研究開発の現状はどうなのか。薬のほかに有効な治療法は考えられるのか──。『WIRED』US版が電話でインタヴューした。

WIRED(US)

Gary Kobinger

新型コロナウイルスのアウトブレイク(集団感染)に「備えておくべきだったとも言えるでしょう」と、ゲイリー・コビンジャーは言う。「しかし、わたしたちはアウトブレイクが発生しそうな気配はまったく感じたことがなかったかのように、慌てているのです」。CHRISTOPHER BLACK/WORLD HEALTH ORGANIZATION/AP/AFLO

ゲイリー・コビンジャーがドキュメンタリー番組「60 Minutes」の取材を2015年に受けたとき、彼は防弾ガラスに囲まれた特殊な無菌室で宇宙服を着て研究にいそしんでいた。カナダ国立微生物研究所の特殊病原体チームの責任者だったウイルス学者のコビンジャーは、エボラ出血熱の抗ウイルス薬「ZMapp」やワクチン「rVSV-ZEBOV」の開発の中心人物になったのである。

コビンジャーは現在、故郷のケベック・シティーにあるラヴァル大学感染症研究センターの所長である。彼の研究室は17年、バイオテクノロジー企業のアイノヴィオ・ファーマスーティカル(Inovio Pharmaceuticals)によるジカ熱ワクチン開発の初期段階で協力したことがある。

そしていま、世界中の多くの科学者たちと同じように新型コロナウイルスのワクチンの開発を目指し、アイノヴィオや医薬品会社のMedicagoとともに研究を進めている。そのコビンジャーに、『WIRED』US版は電話で3月下旬にインタヴューした。

さまざまなワクチン開発が並行して進められるべき理由

──あなたはこれまで一貫して感染症のエピデミック(局地的な流行)を観察し、その対策を支援してきました。エボラ出血熱のエピデミックと比べて、新型コロナウイルスの流行はどうでしょうか。

言うまでもなく新型コロナウイルスは世界規模で流行しており、エボラ出血熱よりも流行は広範囲にわたっています。しかし、ワクチンが使われていなかったころのエボラ出血熱による致死率が80パーセントだったのに対して、新型コロナウイルスによる致死率は5パーセント未満とされていることも忘れてはなりません。

とはいえ、感染症のパンデミック(世界的大流行)は、いずれの場合も社会の反応が非常に似ています。わたしはエボラ出血熱のアウトブレイクの際にアフリカの多くの国に行きました。そして、ウイルスをもち込んで住民を感染させたと何度も責められました。

いま、わたしたちはそのときと同じ状況に陥っています。感染が広まっている国々では、米軍の仕業や国防総省の陰謀、あげくの果てに新型コロナウイルスを輸出したとまで言われているのです。

ウイルスへの対応の遅れも共通しています。誰もがウイルスは自分のところにはやって来ないと考える楽観的な面が、どの社会にもどうしてもあります。〔マスクや防護服などの)個人防護具のようなものが緊急に必要になるぎりぎりになって初めて問題を直視するようになるのも、どの社会でもまったく同じです。

中国では個人防護具の問題は1月半ばに生じていました。ですから、新型コロナウイルスのアウトブレイクに備えておくべきだったとも言えるでしょう。しかし、わたしたちはアウトブレイクが発生しそうな気配はまったく感じたことがなかったかのように、慌てているのです。

今回のケースが以前のほかの感染症と異なるのは、新型コロナウイルスはあまりに多くの国に影響を及ぼしていることです。ワクチンや治療法のほか、人工呼吸器をはじめとするよりよい支持療法といった対策を開発すべきであるという危機感が、これまでの感染症のアウトブレイクの場合よりもかなり大きいことがわかります。

エボラ出血熱のとき、わたしを含く研究チームはアフリカの熱帯雨林の真ん中にいたのですが、そのときと現在の状況を比べてみましょう。あのころ人工呼吸器のような素晴らしい器具をすべて備えていたらよかったのにと思います。でも、世間はわたしたちがしていることにそれほど関心がなかったのです。

ところが新型コロナウイルスの場合は、カナダ政府のあらゆるレヴェルの当局者がわたしのところに来て、「ゲイリー、必要なものがあれば何でも知らせてほしい。手伝うから」と言うのです。わたしはこれまで、こうした支援を受けたことはありません。

──新型コロナウイルスのワクチンの開発に取り組んでいる研究室は、世界中に数多くあります。この状況はいいことでしょうか。それとも、ワクチンを早期に実用化するためには、互いに協力して一丸となって開発に取り組むべきでしょうか。

多くの研究室がワクチン開発に取り組んでいるのは、いいことです。多くのワクチンをテストすることがまさに重要なのです。ワクチン開発をひとつの研究機関だけで進めるような危険を冒すつもりはありません。結果的に臨床試験に至らないワクチンを1種類だけつくることにしかならないのでは、困りますから。安全かつ有効で役立つワクチンを5種類つくれるなら、そのほうがはるかにいいのです。

多くの研究機関がワクチン開発に取り組めば、ワクチン製造のネックが生じる可能性を減らすことにもなります。ワクチンが5種類あれば、地球上の全人類に行き渡るだけのワクチンを製造できるでしょう。けれども、製造元が1社だけでは、それほどの量のワクチンをつくれるとは思えません。

ただ、有効なワクチンが開発されなければなりません。ワクチンをつくっても、新型コロナウイルスに対抗できるだけの効き目がなければ、(新型コロナウイルス感染症である)COVID-19の治療がよりいっそう難しくなります。わかっていることは、人々がますますこの感染症にかかりやすくなりつつあり、もしかすると重症疾患にかかりやすくなるかもしれないということです。それは本当に警戒すべきことなのです。

はっきりしていることは、新型コロナウイルスワクチンの開発は費用がかなりかかるということです。早めにワクチン開発を始めていたなら、5億〜8億ドル(約539億〜862億円)で開発できたでしょう。ところが、いまわたしたちは数十億ドルを費やしています。緊急事態で大急ぎで作業しているからです。

新型コロナウイルスが中国で最初に発生したとき、わたしはこの事態によってわたしたちの感染症対策の準備の度合いがどの程度なのか判明するかもしれないと言いました。わたしたちは、この種の出来事にあまり準備ができていないことに気づくでしょう。

ワクチンの量産を1年以上は早められる

──新型コロナウイルスワクチンの開発には早くても1年半かかる見通しですが、開発を速める方法はあるのでしょうか? 1年半はあまりにも長すぎます。

開発を速める方法はあります。政府や規制当局の協力があれば、ワクチンの量産を1年以上も早めることができます。世界中の人々の分までは無理でも、医療従事者のような集団に行き渡る分はつくれるでしょう。高齢者や複数の持病がある人々など感染症にかかりやすい集団も、それぞれに危険分析を実施することでワクチン接種の対象にすることができます。

わたしたちがいま進めているワクチン開発の進捗状況、つまりすべての人に副作用を与えず、有効でなければならないワクチンをつくる作業の経過は遅めです。でも、考えてみれば、西アフリカでエボラ出血熱が流行したとき、わたしたちは予期せぬことが生じた様子を目の当たりにしました。協力して問題に対処し、流行が終息したのです。わたしたちがいま、再びそのような素晴らしいときを迎えることを願っています。

──治療法はどうでしょうか? COVID-19の致死率を下げれば、ワクチン接種とほぼ同じくらいの効果が上がり、ワクチンよりもずっと早く安心感をもたらすことができるのではないでしょうか。

治療法とワクチンの両方の開発が必要です。治療は重要ですが、それなりに見込みがあるものでなければなりません。治療法に関してむなしい期待を抱かせないように、十分に気をつけなければならないのです。

無作為化試験を行わない場合、薬の効果についていかなる主張をすることも難しくなります。同時に、そうした薬を治療の第一線で用いている医療従事者の意見を聞くことも重要です。これらの医療従事者たちは、その種の薬を無作為化試験で用いていない場合でも、臨床試験を行うべきか否かについて優れた判断を下せます。クロロキンやアジスロマイシンなどの薬はCOVID-19の治療薬としての使用がすでに認められているので、できるだけ速やかに病院でこうした薬を使えるようにしつつ、最善の臨床試験を設計するのがいいでしょう。

とはいえ、最終的な目標は、新型コロナウイルスにまったくかからないようにするワクチンの発見です。新型コロナウイスル感染症の患者は、肺に修復できない損傷を受ける場合があります。そして、ウイルスの流行が一度は下火になっても、あとで勢いを増すこともあるのです。スペイン風邪の場合、1918年春の時点では流行の波はかなり穏やかでしたが、秋になって猛烈な勢いで再び流行しましたから。

血しょうの投与に期待

──薬以外に考えられる治療法はありますか?

血しょうの投与です。これはすでに行われていると思いますが、回復した患者から採血し、その血液から抽出した抗体をほかの患者に注入する治療法です。1700年代に始まった昔からある技術で、この治療に伴う副作用を病院では非常にうまく管理できます。

この治療法はエボラ出血熱ではあまり効果がなかったのですが、それは血しょうの濃縮を十分にできなかったからです。効果的な血しょうをつくるには20倍以上は濃縮しなければなりませんでした。ひとりのレシピエントに対して20人のドナーが必要だったのです。

感染症の治療として回復期血しょうを投与する場合、通常はレシピエントひとりに対して2〜3人のドナーで足ります。COVID-19に対する最も役立つ治療法にわたしが資金を注ぎ込まなければならないとしたら、回復期血しょうの投与を選びます。

わたしたちがいま開発中のほかの治療薬では、効果がないと言っているわけではありません。けれども、わたしは奇跡的な薬を期待するつもりはありません。そのような薬が本当に効果的なら、わたしたちはすでにそうした事例を知っているはずだからです。

──新型コロナウイルスのパンデミックは、あなたの日々の研究にどのような影響を与えていますか?

学校が休校になっていますよね。研究室で働く職員の多くには子どもがいるので、日中は在宅しなければならないメンバーもいます。このため、研究室の通常の活動に支障が出ています。シフトを組んで勤務しなくてはならず、保育所などに子どもを預けられない職員が出勤できるのは、パートナーが子どもと一緒に家にいられるときになります。

──あなた自身は心配していますか?

いいえ。両親はハイリスクなので、ふたりのことは心配です。でも、大局的に考えて、COVID-19以外の感染症に目を向けてみると、COVID-19はそれほど恐ろしい感染症ではありません。新型コロナウイルスの感染状況は縮小に向かう前に拡大するでしょうが、数多くの感染対策が功を奏しています。

最終的な感染者数は減らせないかもしれませんが、感染拡大を遅らせることはできます。そうすれば、より多くの人々が先進的な医療を受けられるので、多くが生き残れるのです。

──なるほど。感染拡大を遅らせるという「流行曲線の平坦化」は、極めてわかりにくい概念かもしれません。特に若者には難しいかもしれませんね。若者へのメッセージはありますか?

「まあ、どっちみち自分は重症になるわけないから」といった調子で行動するのはよくありません。東南アジアでは、高齢者も含めた感染者のうち30〜40パーセントを若者が占めていることを示すデータがあります。ですから、若者はもっと自分の行動に責任をもたなければなりませんし、新型コロナウイルスの媒介者にならないようにしなければならないのです。

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May 04, 2020 at 03:00PM
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