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中国のSF「三体」に見る最新科学 - 日本経済新聞

日経サイエンス

異星文明とのファーストコンタクトを扱った中国のSF小説「三体」は世界的なベストセラーになり、日本でも翻訳SFのハードカバーとしては異例の大ヒットを記録した。ストーリーには物理学や数学の最新の知見が織り込まれ、描写にリアリティーを与えている。「我々の物理世界をさらに広げたような世界で、異質な知的生命体が出会い、衝突が起きた時の話が書かれている。フィクションではあるが、現実の物理学の話とうまく融合している」と天文学者の須藤靖・東京大学教授は話す。

プロキシマ・ケンタウリ(輝いている左の星。ケンタウルス座アルファ星系の3つの太陽の1つ)を望む惑星プロキシマbの想像図(提供:ESO/M. Kornmesser)

プロキシマ・ケンタウリ(輝いている左の星。ケンタウルス座アルファ星系の3つの太陽の1つ)を望む惑星プロキシマbの想像図(提供:ESO/M. Kornmesser)

地球外知的生命との遭遇はSFとしては古典的なテーマだが、現実においても太陽以外の恒星の周りを回る「系外惑星」の探索が進展し、ファーストコンタクトの現実味が増している。2018年打ち上げの宇宙望遠鏡TESSが探索する系外惑星は数十光年から最遠でも300光年程度までの恒星の惑星で、今後、数千個発見されると予想されている。数十光年の距離にある系外惑星にもし文明が存在すれば、人間の一生の間に返事をもらうことができる。

太陽系外から飛来した小天体(恒星間天体)の存在が確認されたのも近年のことだ。第1号は2017年。ハワイ語で「遠来の使者」を意味する「オウムアムア」と名付けられたその天体は、太陽系の北極方向から侵入、火星よりも近いところを通過していった。2019年にはボリソフ彗星(すいせい)の詳しい観測から、同彗星が恒星間天体であることが判明した。想像をたくましくすれば、こうした恒星間天体を乗り物やカプセルとして使う異星文明が存在してもおかしくはない。

もう1つ特筆される出来事は2016年に太陽系に最も近いケンタウルス座アルファ星系で初の、しかも生命が存在しうる可能性がある惑星「プロキシマb」が見つかったことだ。ケンタウルス座アルファ星系は、小説「三体」で高度文明が存在するとされた場所だ。2008年に出版された当時にはなかった異星人の惑星のモデルが見つかったわけだ。同星系は太陽系から約4光年と、天文学的スケールでいえば目と鼻の先にある。この先数十年の人類文明の発展を見通せば、たどり着けない距離ではない。

「三体」には、近年注目を集めている量子情報技術も登場する。三体星人は「量子もつれ」を駆使した量子通信で、地球にサイバー攻撃を仕掛けてくるのだ。量子もつれにした人工量子の一方を地球に送り、三体星に残したもう一方を使って、リアルタイムで地球を監視したり、通信したりする。

量子もつれを使った通信は、現実においても、量子暗号の長距離伝送などへの応用を目指した研究が進んでいる。ただし4光年先の星とリアルタイムで通信するというのはフィクションだ。「もしそれができたら超光速通信となり、相対性理論に反する。残念ながら現実には不可能」と、量子通信が専門の井元信之・大阪大学特任教授は話す。

「三体」に出てくる三体星には、見かけがそっくりな3つの太陽が存在する。3つの物体が互いに引力を及ぼしあいながら運動しているときの動きがどうなるかは、解析的に解けない「三体問題」という、17世紀に遡る数学の古典的難問として知られている。物語では3つの太陽の予測不能な動きによって激烈な天変地異が起きるが、数学者らは実際、これまでに何百種類もの複雑な軌跡を見いだしてきた。近年その解を満たす新たな性質が明らかになるなど、今も研究は続いている。

作家の想像力をかき立てた実際のサイエンスを知ることで、一層楽しみが増えるかもしれない。

(科学技術部 中島林彦、日経サイエンス編集部 古田彩)

(詳細は1月25日発売の日経サイエンス2020年3月号に掲載)

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January 25, 2020
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